香住町 森田家住宅 主屋 木造2階建/亜鉛渡鉄板葺/建築面積 237.8?/桁行 20.37m/梁間 10m/建築年代  明治3年(1870年)
土蔵2階建/桟瓦葺/建築面積 20.56?
板塀/桟瓦葺/建築年代 明治3年(1870年)
中門 薬医門/桟瓦葺 明治3年(1870年)
付属棟 木造2階建/瓦葺/建築面積 46.8?/明治3年(1870年)

兵庫県香美町香住は、兵庫県の北の端に位置し、日本海に面している。海岸部は山陰海岸国立公園の指定を受けている。町内には氷ノ山に源を発する矢田川、但馬山岳県立公園三川山を源とする佐津川、久斗山を発端とする長谷川が日本海に流れこみ、森田家住宅のある奥佐津隼人は、海から4kmほど内陸へ入った佐津川の西岸にある。
奥佐津では、農業の他に1950年代までは養蚕が行われ、90年代頃まで但馬牛で知られる畜産業が盛んであった。また、香美町では80年代頃から蟹漁が盛んとなり、好景気により多くの家が建て替えられた。
森田家古文書に但馬国美方郡の中世土豪であった「はいとうの谷垣殿」という記述がある。森田家の先祖森田左馬助義久が谷垣の養子に入ったことが知られており、森田家は中世土豪に繋がる家柄である。現在の当主は13代目に当たる。名字帯刀を許され、代々大庄屋を務め、金や土地の貸し借りにも関わっていた。
なお、森田家住宅は、近隣の民家と同じく、養蚕が行われ、床下をオンドルにしていた石積みの跡が残る。
屋敷は、西側すぐに山が迫り、東側には前面道路を挟んで田がひろがる。主屋は前面道路の西側敷地のほぼ中央に位置し、東面して建つ。主屋の前面、前面道路との間、東寄りには、中庭が設けられ、中庭の西側に中門を開き、南北・東面の二方に板塀を廻し、主屋後方、北西方向に蔵を設ける。また、南東方向、前面道路に接して車庫、主屋南寄りに付属棟を設けるが、車庫は最近建設の物である。主屋前の付属棟は北面を残して、外壁、屋根が新しくなっているが、内部構造材は当初のままである。真壁造で土壁のままとなっている。便所が2部屋あり、背後が肥溜めになって外に運べるよう扉がある。
それ以外は納屋になっている。
主屋は、棟札から明治3年の建設という。南側に土間を設け、東側に6間取りの床上部を設ける。床上部は、土間境西側から、表通りには、「オモテ」、「ナカノマ」、「オクノマ」が配され、裏通りは、同じく、「ダイドコロ」、「四畳半」、「オクナンド(オナンド)」が配置されている。
8畳の「オモテ」の正面には、3枚建ての腰付ガラス戸が嵌められ、踏み込みに上がり縁が付く。丁度、式台玄関の構成要素を持っており、雪深い地域の解釈事例として見れば興味深い。式台境には1間半を4枚に割った腰付障子をはめ、ナカノマ境には漆塗りの板戸をはめる。「ナカノマ」は6畳とし、背面側に仏壇を構える。「オクノマ」は8畳で北側に出書院を構え、背面側に幅5尺の違棚、8尺の床を設ける。ナカノマ・オクノマとも長押が廻り、竿縁天井とし、壁は現在聚楽壁塗りである。
「ダイドコロ」と4畳半境は、漆塗の板戸で仕切られ、差鴨居も朱漆の仕上げとなっている。また、差鴨居上には、神棚をのせるが、その造りは精巧で向唐破風と軸組の比例も良い。
2階にはオナンド北側の縁側から階段で上がる6畳二間の部屋と、土間から上がる6畳二間の居室が設けられている。また、2階天井裏には大黒柱横の階段から上がる。2階天井裏「タカ」はワラや茅を置くのに使われていた。
使用材種は、オクノマの座敷には檜を使っているが、その他はケヤキが多く使われ、大黒柱は、ケヤキの尺角である。
なお、上の便所と風呂は、明治15年前後に仙石讃岐守が森田家に来泊した時に作ったという。
 ドマは現在一部に床が張られ、間仕切りがなされている。壁は当初の壁の上に合板が貼られている。天井は竹になっていて、その上に筵がのる。
 基礎は礎石に束や柱建ちで大引きがかけられ、根太の上に床板が載り、床高は740ある。屋根は入母屋造で茅葺きであるが、亜鉛渡鉄板をかぶっている。小屋組はサス組であり、サス足元の梁は渡り顎になっていて、サスは梁に大入ほぞ差しである。
 蔵は10畳の広さのある土蔵造りである。柱は栗で板は椎だと思われる。蔵は2階建てで桁行方向に5つのスパンで登り梁がかかる。当初のままで残っているが、入り口の外側の戸は傷んで元の姿をとどめていない。
 中庭周囲に廻らされた塀は板張で桟瓦が載る。当初は瓦2枚分が1枚になった長い瓦で葺かれていた。現在大部分が葺き替えられたが、当初の瓦が庭側一部に残っている。 
門は庭側に控柱のある薬医門である。瓦が葺き替えられた以外は当初のままである。
主屋ドマの壁と床に手が加えられた以外は但馬地域に多くあった養蚕民家のなかでも大規模な形式を示すものとして、当初のままの姿をよく残しており、香住区を代表する庄屋屋敷として貴重である。登録基準「造形の規範となるもの」として価値のある建物である。(石井智子)