建物の概要
奈良女子大学南門を入りまっすぐ北に進むと、木立の中から正面に佐保会館が現れる。キャンパス北辺を流れる佐保川を背に南面して建つ。桁行23.9m、梁間12.1m、木造2階建、入母屋造、桟瓦葺で、正面西寄りに入母屋造妻入の車寄を設け、東面1階に下屋を張り出す。1階軒高には南・西・北面に銅板葺の庇を廻し、東面下屋の桟瓦葺屋根もこれと一連に納める。外観は和風で、2階や車寄の柱頭には舟肘木を置く。小屋組はキングポストトラスとする。
1階平面は、建物西側は「車寄」を入ると土間の「玄関」と板張りの玄関ホールで、左手に受付を兼ねた「事務室」と階段、奥に「応接室」を設ける(注4)。中央部は、廊下を東西に通しその両側に和室を3室ずつとる。南側の3室は襖を開放すれば30畳の大広間となる座敷で、東にとこ床・棚・書院を構え、南は庭に面して縁を設ける。建物東側は、北に「炊事場」、廊下の突き当たりに「脱衣場」・「湯殿」を配し、南はとこ床の背後に廊下を通して階段と便所を設ける。2階は、中央部を大空間の「広間」とし、東西に階段室と小部屋を配する。
「応接室」・「事務室」・2階の内部は洋風の空間である。床は「応接室」に近年の絨毯を敷く以外はリノリウム敷きで、窓は上げ下げ窓とし、主要な部屋の壁には文様入りの壁紙を張る。天井は、2階広間は折上格天井、「応接室」と2階北東隅の小部屋は格天井、他の2階小部屋は棹縁天井、「事務室」と階段室は板天井とする。階段室の手摺は擬宝珠高欄形の和風の意匠になる。なお、上げ下げ窓両脇の外部柱には柱形を用いる。
玄関ホールや廊下は、床は板張り、天井は棹縁天井とする。和室や縁の天井も棹縁天井で、南側の座敷・縁の壁は緑灰色の色土で仕上げる。
昭和25年(1950)頃に「炊事場」周りが改造されたが、それ以外はほとんど手を加えられずに当初のままで使われている。リノリウム、壁紙、照明器具、カーテン、ロールブラインド、家具等も、当初とみられるものがよく残る。
評価
近代の奈良では、明治28年(1895)の奈良県庁舎以降、奈良県物産陳列所(明治35年/1902)、奈良県立図書館(明治41年/1908)、奈良ホテル(明治42年/1909)等、古都の景観を意識して和風の意匠を用いた木造建築が建てられた。外観や細部に和風の意匠を用いた佐保会館の構成には、そうした先例の影響が認められる。
佐保会館は、古都奈良にあって外観を和風とする木造近代建築のひとつとして重要である。また、洋室と和室を備えた内部は巧みな平面計画と落ち着いた意匠でまとめられており、保存状況は良好で当初の内装もよく残り、昭和初期の同窓会館の例として貴重である。女子高等師範学校以来の歴史を有する学校の同窓会館としても、今後とも大切にされることが望まれる建物である。
登録基準
古都奈良における和風の木造近代建築の特徴を備えた建物として、「二 造形の規範となっているもの」に該当するものと考えられる。注1 文部省からの土地借用許可については、生駒節子「佐保会館の今昔」(『佐保会報』第170号、平成16年10月)による。
注2 佐保会旧職員及び平太郎の子孫の証言による。
注3 生駒前掲記事による。
注4 「」内の室名は、昭和3年6月の『佐保会報』に掲載の設計図面による。以下同じ。(石井智子・奈良市教育委員会)
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