石井智子美建設計事務所
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天野酒の西條蔵を訪ねて

鍵谷晃司

 

天野酒西條蔵

天野酒西條蔵

天野酒西條蔵

 

 

大阪府の南東端に位置する河内長野の駅前は、バスロータリーを囲むかたちで大手スーパーをはじめショッピングセンターが立ち並ぶ。そこには商店街もあるが、昼間なのにシャッターの閉まっている店が年々増えているようだ。
日本のどこの地域でも抱えている商店街の衰退化がここにも見受けられる。

駅前の商店の背後には低層で瓦屋根の町並みがひろがり、歴史のある民家があちらこちらに点在している。駅から何分も歩いていないのに随分違った雰囲気になる。

高野街道を少し歩くと、道を挟んで両側にお目当ての西條蔵(酒蔵)が現れる。西條蔵の建物は、道に面して両側に建っており、タイムスリップしたような雰囲気を作り出している。国の登録文化財の建物は歴史的にとても貴重な建て方であるが、残念な事に現在は使われていない。向いにある江戸末期に建てられた蔵は太い柱と梁がつくる大空間になっていて、その中で昔ながらの手作りで酒造りが行われている。古くは、かの有名な太閤秀吉が愛飲した天野山金剛寺の銘酒「天野酒」の麹の遺伝子を唯一受け継いで今日に至っている。
西條蔵の一件が登録文化財に指定され後、道行く人が足を止めて以前より関心を示すようになったそうだ。

「足を止めて人に見られれば見られるほど不思議と持ち主も愛着が湧いてくる。酒蔵周辺にも登録文化財級の建物が数多く残っているので、もっと増えたらいいのに。」と、蔵主の西條さん。
西條さんが旧蔵を登録文化財にしたきっかけは見知らぬ人が店頭でこの建物は貴重なものだから建て替えることをせずに残すべきだと主張したことだという。この話を聞いて、もっと第三者が建物の「すばらしさ」を持ち主に声を出して主張することが町並みを保つ大きな力になりうることを知った。

 

 

西條蔵を訪ねて 2007.02.20

石井智子

 

周辺には歴史のある建物が点在し、由緒ある  神社とともに西條蔵一帯は
散策するにふさわしい趣のある町並みになっている。季節限定のにごり酒や酒粕、日本酒で作られた梅酒など、おいしいお土産が手に入るのも魅力の一つである。

このたびの登録文化財建物は、道路側の外観はきれいに保存されており、歴史的景観を作り出しているが、裏の方がとても傷んでいるのに心が痛んだ。使われていないということも大きな要因の一つだが、修理には何億というお金がかかるという間違った風評にも原因があると思われる。また建物の維持にかかる修理費は持ち主が全て負担し、どこからの援助もないということが、歴史のある建物を保存しにくくしている大きな要因だと思う。
歴史のある建物が次々と壊されている現在、今ある建物だけでも大切にし、次の世代へと引き継いでいかなければならないということを、全ての市民が認識し、企業も含めて歴史のある建物を援助していこうという仕組みが必要だと思う。海外では企業がお金を出し、その会社の持ち物でない歴史的建物を修復したということも行われている。当然のこととして、歴史的建物が保存される社会になるために、少しずつであっても、歴史のある建物の大切さを広めていこうと思う。

歴史のある建物は、傷んでいることが多いが、日本の木を用い、長い年月をかけて生み出した伝統的な構法で建てられているので、元の建物を尊重した設計をして修理をすると、建物の本来のすばらしさが引き出される。全体の修理予算は、大概の場合その建物と同じ規模のものを新築した場合の予算の半額を目安としている。だが、規模の大きな建物の場合、まず修理に急を要するところの工事を行い、予算に合わせて何期かに分けて工事をすることもできる。
傷んでいる建物を放置しておくと、ある時期からは老朽化が急に進み、大規模な修理になってしまうこともあるので、修理を行う時期の見極めも大切である。

建物は、展示されるものではなく、使われているのが一番望ましい。使われている建物が、一番生き生きしているように感じられる。歴史のある建物を使って傷むと、また修理をするという風にしていくと、伝統的な技術や素材、物も伝承される。日本の大切な文化の保存ということに、多くの人々が心を傾けるという日が来ることを願っている。        

 
 

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